2人で映画館から出てみたら、想像していなかった、横殴りの雨が降っていた。
EXITのガラス扉からみえる人々は頭からずぶ濡れになって足早に交差していた。
傘もない。

「ねえ、手塚…。午後から、雨だったかな?」
「…いや。確か40%曇りだったと思ったがな…」

ここから手塚宅まで走って10分位くらいだろうか。

「これじゃあ、うちに寄っていった方がいいな。不二、時間は平気だろう?」
「え?あ、うん…そりゃあ平気だけど…」
「ここでいつまでも立っていても仕方ないだろう」
「そうだねぇ…じゃ、軽く走ろうか」





「いや、これでいいか?」
「ん。ありがとう」

手塚に差し出されたのは、ラベンダー色のパジャマ。
不二が腕を通すと、それは指先の、爪の先が覗く程度だった。大きい。
年にしては大柄な手塚の服は、小柄な不二の身体をすっぽりと覆い尽くす。肩幅のラインが、がくんと落ちた
パジャマの袖を巻くりあげ、パンツの裾を折り返すと不二は部屋の真ん中に座った。

「やっぱり手塚のは、おっきいなぁ。いいよねー」
「母には呆れられてる。どこまで大きくなる気なの?ってな」
「ふぅーん。僕に、この折り返しの分くらい譲ってくれてもいいのに」

手塚は不二に渡したものと、全く同じデザインで、ブルーのパシャマに着替えていた。

「ねえ、これって同じデザインなの?」
「ああ、母が何色かまとめ買いしてくるからな。気に入らなかったか?」
「ううん。肌触りのいい生地だから、着心地いいよ。お母さん、趣味いいね」
「そうか?なら、よかった。ほら、不二」
「うん、ありがとう。ごめんね。なにからなにまで…」

渡されたティーカップから、ほのかなアールグレィの香りが漂う。

「母がいればな。乾燥機の使い方が、ちょっと判らないんだ。急速乾燥とかあるはずなんだが…」
「いや、いいよ。もし駄目なら手塚の服を貸してね。…っていっても僕に着れるサイズなんて、あるかな」
「以前のなら…といってもこれも何処に片付けてあるのか、どうも判らん。…なんだ?」

うっすらと声を震わせる不二を不審に思ったらしい。

「やっぱり男の子しかいない家庭って違うなあ、と思ってさ。青学テニス部長も、やっぱり自宅では普通だよね」
「なにをいってるんだ、当たり前だろう」

2人は座ると、暖かい紅茶を飲む。
壁にかけられた手塚のルアー・コレクション。
綺麗に並べられた、それは以前みた時より数が増えている。

「あ。手塚、また新しいのが増えてるね」
「ん?ああ、この前、貰ったんだ。色が綺麗だろう?」
「うん。ちょっと孔雀の羽に似てる色だね」
「ああ、ここまで色が鮮やかに出すことも珍しいんだ」

手塚の部屋はいつも、部屋の所有者そのものに整然と片付いている。
たまに突然寄ったとしても「ちょっと待ってくれ」といわれた例がない。
ふいに手塚の掌が、そっと不二の前髪をかきあげた。

「なに?」
「まだぬれているな。もう少し乾かしたほうがいいぞ。風邪をひかれては困る」
「…都大会も近いことだし?」
「余計なことだとはわかっているが…心配はさせないでくれ」
「判ってる」

いつのまにか空になったティーカップをフロアに置く。
綺麗に掃除されたフロアマットに横たわると、いつも自然と抱えるように自分に抱き寄せる。
手塚はいつもそうだ。不二が床に直に寝転がることを好まない。綺麗に片付けてあるのだから、気にする必要もないだろうに。
触れた床から直に体に響く、規則正しい、低いモーターの音。
きっと乾燥機が回る音だろう…。

「不二?」

「ん…」

そっと手塚よりは随分と細い腕が、そっと腰に回される。
不二は体全体にひたひたと響きわたる、静かで暖かな鼓動と、モーター音に、そのまま身を任せる。
意識なく、幾度となく不二の頭を撫でる手の、その穏やかな動き。

「気持ちいいなぁ…とおもって…ね…」


意識が少し遠くなる。

ああ、このままで眠ってもいいかな?

声にならない、意識が…どこまで触れた体の、その触れられた指先から伝わっただろうか。
こんなこと、約束通りじゃないけど…でもキミとならしてみてもいいよ。

まだ、間にあうかな?

ねえ…







人は、これを「書き逃げ」といいます(笑)
すまん!
illustration14からの妄想です。
わはははは♪ここまでやっちゃったい!!